抱いてはならぬ想いを願った覚え等無いのに、蜃気楼はゆらり揺れて消えることを知らない。
踏み締めても手応えのない夢を観るのはもう飽きたのです。
夢を観るなら星の夢がいい。
ネオンは眩しすぎて眩しすぎて目が眩んで、そこにあるものすらも見落としてしまうのです。
今日は曇り空です。星が見えませぬ。
時折、切ない程に星に焦がれることがあります。あの光に、何かを思い出すとでも言うのでしょうか。
そんな私は今日補講に出向き、サロメを最後まで鑑賞して参りました。
映像で観るサロメは、予想以上に恐ろしかったです。
奇しくもカルメンを演じていたのと同じ方で、そう美人と言える顔立ちではないにも関わらず妖艶な魅力を醸し出す様は流石でありました。
サロメ、サロメ。
彼女はなにゆえにあのように奔放に育ってしまったのか。
彼女の姿に、舞に、歌に、戦慄を覚えない者がいましょうか。
己が欲を満たすがために二人もの命を犠牲にした女性。
彼女こそ、悪女の名に相応しい者のように思えてなりません。
そういえばカルメンの話を忘れておりました。
私はカルメンについて何の知識も持ち合わせていなかったのですが、驚いたことに使われている音楽のほとんどが耳が覚えているもの達でした。
カルメンもまた自由奔放な女性ではありますが、前半部の魅力を振り撒く様は一種の憧憬すら抱いてしまいそうな程軽やかでした。
思わせぶりな態度を示しておきながら、口では決して甘い言葉を吐かない。
実際目の前にしてみれば目を顰めずにおれない姿でありましょうが、そこは舞台。
やはり彼女が美しいことに変わりはないのです。
ジプシーの衣装もまた素晴らしかった。
翻るスカートに、しなやかに踊る手。
アップテンポな激しいダンスも好きですが、何か深い意味を秘めていそうな手姿にもまた惹かれます。
それはそうと、今日不思議な出来事があったので記しておこうと思います。
朝、電車内でノートと教科書を広げ、私は黙々と仏語の文法要点を書き写しておりました。
そうしてしばらく経った頃、何十人という野球のユニフォームを着た少年達が乗り込んできたのです。
年の頃は恐らく高校生。車内は突然騒がしくなりました。
それでも私は黙々とペンを走らせていたのですが。
少し経った後、斜め前に誰か座ったような気配。
顔を上げてみれば、ユニフォームを着た少年が一人、座っていました。
そしておもむろに、こう尋ねたのです。
「何の音楽聴いてるんですか?」
…迷いました。心から迷いました。
折しも、その時流れていたのは戦場のメリークリスマス。
この曲名を言って、彼に通じるのかどうか。
結局、私は悩んだ挙句に
クラシックと答えておきました。
…激しく違っているのは分かっていますとも、ええ。
でも動揺したんですもの、分かって。
彼は「そうですか」とだけ言って去っていきました。
そのすぐ後に、ご友人達と思われる少年達の「何訊いたん?」などという声が聞こえてきましたが。
結局何だったのか、未だに謎でございます。
罰ゲームだったのでしょうか。
…訊いておけばよかったかしら。でもそれも無謀かしら。
話は変わりますが、今日、バイト先からメールが来ました。
海の日にバイト先近くで花火大会があるために、その日は浴衣出勤可、とのことです。
パイプ椅子に腰掛けた時点で帯が崩れそうな気がしますが、はてさて浴衣で来る方はいらっしゃるのでしょうか。
私もその花火には行きますが、映画にも行くため浴衣は断念致しました。
それでなくとも、電車に座っている間に崩れます。確実に。
着てから花火が始まるまで半日は確実にあるのですから、保てという方が無謀というものです。
…少し切なくなったのは、秘密です。
さて、明日もまたバイト。九時間半、頑張って参ります。